大判例

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東京高等裁判所 平成11年(う)1012号 判決

被告人 大野綾次

〔抄 録〕

所論は、「欺言による姦淫」を処罰することは罪刑法定主義に反するものであり、本件の各犯行の態様を検討してみると、被告人が女性の声色を使って被害者の娘や妹あるいはその親友の女性を装って被害者の元へ電話し、「夫と性交中」又は「子供と体当たりした事故」により相手の陰茎が自分の性器内に入り膣けいれんにより抜けなくなったなどという不自然な訴えをしたのに、被害者はそのまま「軽々しく」信用し、後は、被告人の指示通りそれぞれの相手方と性交するに至ったという犯行形態であり、被告人の話の内容は、膣けいれんを起こした後無理をして男性の陰茎を抜くと、男性の体内に溜まった精子が腐ってしまい性交不能となるので、二回に分けて一人は被害者に一人はアルバイトの看護婦に性交ないしは性交の真似事をしてもらわないといけないという、極めて不可解で合理性に欠ける不自然な作り話であって、通常の社会人が到底引っかからないような言動であり、少なくとも被害者側には心の隙や過失が相当あり、また、最低限必要な状況判断能力にも欠けていたことが明白であって、各被害者側に看過しえない重大な過失があったものといわなければならず、被害者らはあくまで「自己の意思に基づき姦淫する意思をもって姦淫した」ものであって、被告人の行為は、刑法一七八条に規定する「抗拒不能」に陥れて姦淫したという構成要件に該当しない、と主張する。

そこで、検討するに、刑法一七八条にいう「抗拒不能」は、物理的、身体的な抗拒不能のみならず、心理的、精神的な抗拒不能を含み、たとえ物理的、身体的には抗拒不能といえない場合であっても、わいせつな行為あるいは姦淫行為を拒めば被害者の身近な者らに危難が生じるものと誤信させ、その危難を避けるためには、その行為を受け入れるほかはないとの心理的、精神的状態に被害者を追い込んだときには、心理的、精神的な抗拒不能にさせた場合に当たるということができる。そして、そのような心理的、精神的状態に追い込んだといえるか否かは、その危難の生じるとされた者と被害者との関係、被害者の年齢、生活状況などの具体的事情を資料とし、当該被害者に即し、その際の心理や精神状態を基準として判断すべきであり、一般的平均人を想定し、その通常の心理や精神状態を基準として判断すべきものではない。刑法一七八条は、個々の被害者の性的自由をそれぞれに保護するための規定であるから、犯人が当該被害者にとって抗拒不能といいうる状態を作出してわいせつな行為あるいは姦淫行為に及び、もってその性的自由を侵害したときは、当然その規定の適用があると解すべきである。

この観点から原判示の各犯行をみると、原判決が「争点に対する判断」で適切に説示するように、いずれの犯行においても、被告人は、被害者の娘や妹あるいは親しい知人を装い、同人らに切迫した事態が生じ、被害者の助力が必要不可欠であると誤信させて被害者を精神的に追い詰め、被害者が姦淫行為を拒めば、娘の夫らが性的不能に陥るものと誤信させ、各被害者を心理的、精神的に抗拒不能の状態にさせたものということができるのであって、準強姦罪あるいはその未遂罪の成立を認めた原判決は正当であり、所論は採用できない。

(高橋省吾 青木正良 本間榮一)

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